株式会社grit(グリット)代表 原田健 ブログ

grit代表原田健の戦略、人材育成、テクノロジーなど幅広くビジネスに関するブログです

雑談と組織の心理的安全性

◇サイドチェンジを増やすには? 〜オフト監督の鋭い洞察〜

 

昔、WEBの記事で読んだ話です。元サッカー日本代表監督ハンス・オフト監督の発言にインパクトを受けました。記憶はおぼろげですが、下記のような内容だったと思います。

 

ある日、二人のコーチがグランドで熱心に話し合っていました。試合で、左右のサイドバック間のサイドチェンジを増やすにはどうすればいいか?という話です。そこへ、オフト監督がやってきて答えます。

 

オフト監督の答えは「左右のサイドバックを仲がいい選手にする」でした。

 

◇仲がいい選手であれば

 

この記事を読んでとても関心しました。確かに、仲がいい選手であれば、日頃からよく話をします。コミュニケーションの量が多いです。サイドチェンジという課題が出されれば、二人で考え、自主練習もするでしょう。練習以外の時間も、ご飯を食べたり、テレビをみたりしながら、話題になるでしょう。そうなれば、いろいろなディティールが話しあわれ、試合で実行されることになるでしょう。

 

仲が良ければ、試合でも思い切ってパスを出すことができます。多少、強引なパスをしても、あいつだったら大丈夫だろうという安心感があります。失敗しても、ドンマイと言ってもらえます。気持ちもすぐに切り替わります。

 

これがあまり仲がよくなければ、あるいはベテランと新人であれば、なんでそんなパスするんだよ、とか言われる心配をすることになります。そうなれば無意識のうちにパスを出すことに躊躇します。これでは、いくら練習しても実戦ではなかなか実行できません。

 

試合でチャレンジの回数が増えれば、経験値も積み重なり、成功する確率が高くなります。パスの精度も上がります。より効果的なサイドチェンジができるようになります。

 

ここで重要なことは仲がいいというインフォーマルな関係があることで情報の交換量が増えることです。そして、気心が知れているので、実戦で思い切ったパスを出せる、つまりチャレンジが増えることです。

 

Googleの提唱する心理的安全性

 

皆さまご存知のGoogleは、様々なプロジェクトをチーム単位で実行しています。世界中から頭の良い人たちが集まったGoogleのなかでも、すば抜けて生産性の高いチームがあります。

 

では、そのチームに共通する特徴は何か?その研究成果を、Googleは自社サイト「re:work」で発表しています。

 

https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/identify-dynamics-of-effective-teams/

 

Googleの結論は、下記の5つです。

心理的安全性
 頼りなさ、恥ずかしさを感じることなくリスクをとれる。

 

②信頼性
 クオリティーの高い仕事のため、お互いを頼りにできる。
 
③構造と明瞭さ
 チームの、ゴール、役割、実施計画が明確である。

 

④仕事の意味
 チームの一人一人が、個人的に重要なことに取り組んでいる。

 

⑤仕事のインパク
我々がやるべき仕事だと確信をもって取り組んでいる。

 

生産性の高いチームのメンバーは、この5つの特徴を持っています。そして、この5つのなかで、心理的安全性が全てのベースになっているということです。

 

◇どう実行すればいいか

 

心理的安全性が大事なのはわかります。では、どうやって実行すれば良いのでしょうか?この短い説明文だけではわかりません。他に記事を読んでも、抽象的な概念の説明だけで腑に落ちません。そう思っていたら、経済産業省の職員が、メルカリに出向し、体験した話の記事をWEBで読みました。この文章で、その要約を書きますが、とても良い記事なので、きちんと読んでみられることをお勧めします。

 

www.businessinsider.jp

 

以下、要約です。

 

メルカリでは、チームのメンバーは、毎週一回は30分の1対1のミーティングを上司と行います。30分、1対1で何を話すのでしょうか?

 

そこで話されていることは、他愛もない話です。多分、この前新しくできたラーメン屋さんが美味しかったとか、この間観た映画が面白かったとか、本当に他愛もない話だと思います。

 

この他愛もない話をすることで、部下と上司の心理的な距離感が縮まります。お互い仕事の立場を離れ、一人の人間として接することができます。相手の人間像が広がりを持って見えるということです。そして、部下の上司に相談する心理的ハードルが下がります。心理的ハードルが下がれば、部下からの情報がいち早く上司へ入ります。アイデアが共有され、トラブルが防がれます。不完全な形でも情報は伝わります。組織の生産性が向上します。

 

「早くて柔らかい組織」が実現されるということです。

 

もちろんこの他にも、心理的安全性を担保するだけでなく、チームの生産性を上げるために、様々な工夫をされていると思います。当たり前ですが、心理的安全性だけではダメです。ただのぬるま湯になってしまいます。チームの目標と、他の4つの特徴が必要です。
 
この記事を読んだ時、それまでよくわからなかった心理的安全性の概念が、自分なりに理解できました。同時に記憶の片隅にあった、オフト監督のサイドバックの話を思い出しました。

 

◇雑談は重要


コロナ禍のなか、リモートワークや、オンラインミーティングが当たり前のことになってきました。しかし、このオンライン上で、ちょっとした「アイデア」や、現場での「気づき」などの情報が交わされるでしょうか?また、後に大きなトラブルになるような、ちょっとした「出来事」の報告があるでしょうか?流行りの「DX化」が解決してくれるのでしょうか?

 

組織の生産性を上げる要因は、人間の感情です。組織の風土です。一見無駄に思える雑談の時間は大切です。リアルで接する機会が減るからこそ、また新たなチャンスが生まれる時代だからこそ、なんでもないような雑談の時間を作ること、そして組織の心理的安全性を作ることが重要になっていきます。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。

経済は動いている 〜未曾有の好景気になるかも〜

◇未曾有の好景気…だったかも

 

もしコロナ禍がなければ…、今は未曾有の好景気だったかもしれません。理由は3つあります。それは、「AI-クラウド-5G」、「脱炭素化」、「東京オリンピック」です。

 

まず一つは、5Gの普及により、「AI-クラウド-5G」という次世代要素技術のトライアングルが完成したことです。あらゆる製品・サービスが、センサーを通じてクラウドとつながっていきます。そしてデータは蓄積され、製品・サービスはAIによって最適化されていきます。このことは世界的な半導体不足の原因の一つです。さらに新たな機能を持った半導体の開発、そして、半導体製造装置への投資がさらに加速しています。この動きはこれからも長く続くと思います。

 

次に、世界的な「脱炭素化」への動きと、それに伴うインフラ投資です。日本は、2040年までに、30ギガワット〜45ギガワットの風力発電を確保する目標を掲げました。あわあて日本国内で電力の広域運用を実現する配送電網の整備の構想を掲げました。取り扱いが難しい水素関連のインフラ投資も進んでいます。エネルギー関連のインフラ投資は設備だけでなく、システム、運輸、保守など関連する業界にも需要を作り出します。これは日本だけでなく世界的な動きです。さらに「脱炭素化」は前述の「AI-クラウド-5G」という要素技術の確立とも結びついています。一昔前のように、人が電力の需要を予測して、発電所の火力を調整するということはありません。AIがセンサーを通じてデータを集め、電力を最適に振り当てることができるということです。無限に近い組み合わせの中から一瞬で最適解を得ることができます。一昔前、太陽光発電が脚光を浴びたとき、再生エネルギーがメインになることについては懐疑的な声が多かったです。でも今はそのような声は聞きません。

 

最後に「東京オリンピック」です。何事もなく開催できていれば、上記の2つにあわさって、国内の景気は最高潮だったと思います。国内は日本人だけでなく、海外からの旅行客で賑わっていたでしょう。

 

◇将来のことはわからない

 

テレビのニュースを見ると、「コロナ」、「コロナ」で同じことを繰り返しているように感じます。実態がわからない数字の羅列と、政治家のパフォーマンスと、その批判がひたすら繰り返されているだけのように感じます。もう誰が、何を、どうしているのか、わけがわからない状態です。まあ、みんなそうなのだろうと思います。今の緊急事態宣言のなか、医療関係者や、影響を被っている事業者の方々は本当に大変だと思います。

 

コロナ禍でなくても、基本的に将来のことはわかりません。しかし、仮にコロナ禍が終着すればどうなるでしょうか?個人的な予測ですが、企業活動に関わる消費はもとには戻らないと思います。不必要な出張、会議、研修、接待などは減少すると思います。一方で、消費者関連の消費、特にレクリエーションに関することは、戻るだけなく、大きなリバウンド、そして新たな需要の出現があると思います。

 

◇これからのこと

 

コロナ禍の状況でも「AI-5G-クラウド」×「脱炭素化」という流れは進んでいます。テレビは危機感をあおるニュースばかりで、世の中は自粛ムードに包まれています。一方で経済活動のコアは大きく動いています。

 

さらにこのコロナ禍のなか、世界的な規模で人々の「認識の変化」が起こりました。これまで必要だと思っていたことが必要でなくなり、今まで必要でなかったものが、必要だと思うようになりました。新たな生活様式が生まれています。このような変化が世界的規模で、同時に、短時間で起こることは、歴史的にもかなりまれな出来事です。

 

「AI-5G-クラウド」×「脱炭素化」×「認識の変化」。この流れは世界的に大きな変化を、そして新たな需要、多くのイノベーションを生み出します。もしかしたら、これから未曾有の好景気を迎えるかもしれません。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。

小さなサブスクビジネスの可能性

サブスクリプションビジネス百花繚乱

 

現在、動画のサブスクリションビジネスはまさに百花繚乱です。圧倒的に強い「Netfilx」、Amazonの「Prime Vido」、ディズニーの「Disney+」、アップルの「Apple TV」など、世界に冠たる企業が運営しています。

 

日本でもTV局系列の「hulu」、「UーNEXT」、「FODプレミアム」などが、一気に立ち上がりました。その他にも多くの企業が参入しました。種類もアニメ専門、スポーツ専門など沢山あります。

 

資金とブランドがあれば、新規参入は簡単なので、続々と大手企業が参入しました。しかし、現状を見ると動画系サブスクリプションは、「Netfilx」の一人勝ちのようです。この競争が激しい業界で、「Netfilx」は世界的に値上げをしました。現時点では、初回の期間無料のキャンペーンもやっていないようです。続々とオリジナルの作品をリリースして、ヒットさせています。

 

◇「Netfilx」の「強み」の源泉

 

「Netfilx」一人勝ちの背景には、コンテンツ作成能力という「強み」があります。2019年のコンテンツ制作費用は約1兆5千億円です。NHKの年間製作費の5倍です。もちろん今は、更に多額の費用をかけていると思います。

 

制作費用が潤沢なので有名な監督、俳優、様々なクリエイターなど優秀な人材が流れ込んでいます。日本のお家芸のアニメでも、アニメーター「丸抱え」の仕組みを作っています。日本の制作会社と提携し、アニメーターの育成費から、その生活費まで負担しています。

 

お金が潤沢なだけでなく、監督にはかなりの裁量が任されているようです。TV局が敬遠するような際どい内容の作品を作ることもできます。日本のテレビ局のように過剰な自主規制に縛られません。アップルやディズニーのように今まで積み上げてきた守るべき企業イメージもありません。この制作の自由度も大きな魅力です。

 

現場はお金があるだけでなく、才能のある人が集まり、いい作品を作りたいという意欲に溢れています。

 

「Netfilx」のコンテンツ作成については、膨大な利用情報をAIで解析してユーザー層に合わせて好みの映画を作れる云々と、本や記事に専門家が書いてあることが多いです。圧倒的な量のデーターベースとその解析で、ユーザーをいくつかの層に分けて、ヒットするコンテンツを企画できるようです。しかし、何より現場の意欲の高さが強みの源泉だと思います。

 

◇ニッチビジネスの可能性

 

「Netfilx」一人勝ちの構図が形成されるなかで、ニッチなサブスクリプションのビジネスチャンスが広がっています。

 

注目しているのがダンスのDリーグです。プロのダンスチームが、1年間複数のラウンドで順位を競い、最終的なチャンピオンを決めます。2020年8月に発足したばかりですが、すでに名だたる企業が、スポンサーやオーナーに名を連ねています。

専用のアプリをダウンロードし、1年間6,600円の有料会員になると様々な特典がつきます。そのなかで面白い取り組みは、有料会員が、ラウンドの審査ポイントを得られることです。

 

Dリーグでは、100点満点の計算で順位を競います。その得点は、プロの審査員による得点と、有料会員による得点を合わせたものです。単に視聴するだけでなく、有料会員が得点を付与することができます。その勝敗に関わることができます。インタラクティブなエンターテイメントができています。

 

今の若い人たちはダンスがより身近になっています。ダンスは中学体育の必修科目です。若い人は、自分たちのダンス動画をTikTokに投稿しています。ダンスは単なる娯楽ではなく、コミュニケーションツールであり、自己表現のツールです。これからも競技人口は増えていくと思います。周りを気にせず大音量で音楽をかけてみんなでダンスが自由に踊れる場所のニーズはあると思います。そしてアマチュアチームの発表の場もニーズがありそうです。そう考えると、ダンスは、さらにインタラクティブにリアルとネットを融合できそうです。これはコンテンツが一方通行の「Netfilx」ではできないことです。

 

◇スモールサブスクリプションビジネスの可能性

 

魅力的なコンテンツがあり、コアなユーザーがいて、インタラクティブなエンターテイメントが実現できれば、小さな企業でも優良なプラットフォームが構築できます。更に、リアルのサービスと組み合わせて収益を上げる仕組みができれば、その優位性は確固たるものになります。

 

実際に、タレントやビジネス系の有名人がそのようなプラットフォームを作っています。しかし、これはファンクラブの発展形のようなものです。今後、個人のネームバリューに頼らない、一つのビジネスのカテゴリーとしての、小さな確固たるプラットフォームが生まれてくると思います。

 

今はアプリの開発も多額の費用はかかりません。アイデアと熱意があれば、ビジネスを立ち上げることができます。そして、その後の工夫と努力の積み重ねが重要です。もちろんサラリーマン感覚ではダメです。動画系サブスクに参入した大手企業の死屍累々たる状況を見れば、それがよくわかります。みんな同じような内容だし、同じようなキャンペーンをやっています。何かびっくりするような新機軸のアイデアはありません。何か斬新なアイデアがあっても、組織内(巨大なグループ)の稟議や調整でなかなか実現できないでしょう。

 

何より大切なのは、関わる人のチャレンジ精神や意欲です。それがなければ人の知恵と工夫は生まれません。テクノロジーが発展しても、ビジネスの成功を決めるのはやはり人の感情です。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。

マクドナルドはなぜ強い

◇コロナ渦で強いマクドナルド

 

コロナ渦の中、外食業界全体が大きな打撃を受けています。しかし、その中でマクドナルドは成長を続けています。

 

日経MJによると、既存店売上高は、4月まで10ヶ月連続で前年を上回っています。2021年12月期の連結営業利益は、前期比2%増の320億円です。2期連続の最高益を見込みます。

 

単に数字がいいだけでなく、デリバリーへの対応、アプリの開発、新たなキッチンシステムの開発など、様々な革新的な取組みをしています。

 

マクドナルドが強い理由3つの理由

 

マクドナルドが、この非常事態に強い理由は、1)明確な戦略と業界地位、2)生真面目な日本風土への適合、3)危機を乗り越えた過去の3つが挙げられます。

 

まず1)の明確な戦略と業界地位です。マクドナルドは、ハンバーガに特化しています。もちろんロープライスです。そして顧客は、ファミリー層から、学生、ビジネスパーソンまで、幅広く対応しています。飲食業の中で、典型的なコスト集中戦略を実行しています。

 

業界地位を見ると、マクドナルドは、外食産業の中で、売上は3番目の規模です。1位はゼンショーHDの6,304億円、2位はすかいらーくHDの3,753億円です。マクドナルドは、3位で2,817億円です。しかし、マクドナルドはハンバーガーというカテゴリーに特化しています。幅広い客層が利用できます。特にファミリー層に強いです。一方で、ゼンショーHDは、その柱は牛丼ですが、このカテゴリーは熾烈な競争です。すかいらーくは、ファミリーレストランで、商品のレパートリーが豊富で、扱う食材も多いです。そして両方とも、複数の飲食ブランドを抱えています。

 

マクドナルドはやることが明確です。まず一番の優先事項はローコストオペレーションの確立です。なので、店舗、製品、人材、IT技術などへ集中して投資ができます。今回も急増するテイクアウト、デリバリー需要へ迅速に対応することができました。さらに生産性の高い新たなキッチンシステムも開発しています。今後、外食産業のDX化が進むなかで、この投資が集中できるというメリットはより大きくなります。

 

次に、2)の生真面目な日本風土への適応です。特定のカテゴリーに集中して、ローコストオペレーションを確立する戦略は生真面目な日本の風土に適合しています。コスト集中戦略の成功例は、マクドナルドだけでなく、ユニクロニトリなどの製造小売業があります。コツコツとオペレーションを改善していくのは、日本人の気質にあっていると思います。

 

最後に、3)の危機を乗り越えた過去です。マクドナルドは長い歴史の中で、何度か危機に見舞われました。店舗急拡大、極端な安売り路線後の業績の大幅な落ち込みがありました。鶏肉スキャンダルの時も、ショッキングな写真がテレビ、ネットに流れ、大きく業績を落としました。しかしその中でも、ブランドを陳腐化させず、リニューアルして復活してきました。こういうクライシス(危機)を組織一丸となって乗り越える風土があります。

 

◇クライシスの中でリーダーに必要なこと

 

クライシスの中、組織には明確なビジョンと戦略、そして強いリーダーシップが必要です。それがあれば、生真面目な日本人は、一丸となって働くと思います。

 

多くの企業が「新たな強み」を得るのは、クライシスを乗り越えるときです。コロナ禍のなか、苦境に立たされている企業がたくさんあります。しかし、この不遇な時代に培ったものが、また次のステージで活かされていくと思います。

 

社会で働く多くの人がコロナ禍の中で、何をやればいいのか途方に暮れていると思います。一方で、多くの人が何らかの形で社会に貢献したいという気持ちを抱いていると思います。明確なビジョンと戦略を掲げる、そしてみんなに伝えるというリーダーの役割が、何よりも重要になります。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。

「安い日本」 〜構造的なデフレの果て〜

◇「安い日本」という衝撃

 

「安いニッポン「価格」が示す停滞」という本を読みました。日本が置かれている環境は、ある程度はわかっていたことなのですが、こうしてデータと事例でまとめられると、かなりの衝撃を受けました。以下、本の要約と個人的感想です。

 

◇他国の価格は高い? ビックマックとディズニーランド

 

2021年現在、日本のマクドナルド、ビックマックの価格は390円です。一昔前、2010年の価格は320円でした。およそ10年で、70円値上げされました。とはいえ、まだまだリーズナブルな価格だと思います。

 

アメリカでは、2021年、その価格はおよそ590円です。日本より200円も高いです。なんと2010年の価格は、およそ330円でした。この10年で、250円以上値上げしています。

 

この10年で、なぜこれだけの差が開いたのでしょうか?アメリカでは、ビックマックはちょっとした高級品になったのでしょうか?

 

2021年、ディズニーランドの入園料は8,200円です。この6年で2,000円値上げしました。値上げはニュースで話題になりました。ファミリー層の悲鳴もよく記事に取り上げられました。

 

でも、世界のディズニーランドはもっと高いのです。パリで約1万8千円、フロリダで約1万5千円です。「日本より狭い」と言われる香港でも約8,500円です。

 

他国は、この価格でお客さんが来るのでしょうか?中流のファミリー層では滅多にいけないところなのでしょうか?

 

◇「安い日本」ということ

 

これらのことは、日本の価格が世界的に見て、「安い」ということです。

 

日本は30年超デフレが続いています。日本の消費者は安いということを何よりも重視します。企業は消費者のニーズに答えるため、懸命に努力してきました。結果として、企業が価格転換するメカニズムが破壊され、物価が上がらないのです。そして当然、賃金も上がらないのです。

 

一方で、アメリカの物価は20年間、ほぼ毎年2%ずつ上昇してきました。結果、2020年の物価水準は、20年前の2000年の5割増しになります。

 

では為替(名目為替レート)の動きはどうだったのでしょうか?2000年も、2020年もおよそ1ドル110円で大きな動きはありません。

 

そのため日本人が久しぶりに、アメリカに行くと、価格の高さにびっくりすることになります。一方でアメリカ人は日本の安さにびっくりします。

 

相対的に日本人の購買する力が落ちました。為替が安くなった(円安)わけではなく、20年間にわたるデフレ傾向が原因だと言えます。

 

ここでは、「購買力」を簡単に、一個人が、一定の金額で様々なモノ、サービスを買うことができる力と定義します。

 

そしてこの購買力を比較すると、日本の購買力は、アメリカの7割以下なのです。アメリカでは所得が上がっているので、ディズニーランドの入園料が上がっても負担感は高まらないのです。ビックマックもこれまで通り、リーズナブルな食事なのです。

 

日本は豊かな国だったのではなかったのでしょうか?「豊か」という概念をどう定義するかによりますが、ある程度の所得である程度の暮らしができるという意味では、日本は十分に豊かだと思います。

 

しかし、世界と比較すると長期デフレによる物価の停滞、上がらない所得、そして企業の賢明な努力によって、世界の中でも個別の製品、サービスの価格の安さが際立つようになりました。こんな先進国は世界でも日本だけです。

 

他国から日本にやってきて大量の品物を購入する「爆買い」の背景は、日本の品質がいいということだけではなく、単に安いからなのです。海外からの旅行者、インバウンドの急激な増加の背景も同じです。彼らはとてもクオリティーの高い日本の製品、サービスを信じられないほど安く買えるのです。

 

◇「安い日本」の現状

 

「安い日本」は、世界の優秀な人材を獲得することができません。どの企業も喉から手が出るほど欲しいIT人材は、他国が高いお金で獲得します。さらには、日本から優秀な人材も他国へ流出していきます。

 

「安い日本」は技術も安く買われます。高い技術を持った中小企業が、中国系の企業に買収される事例も増えています。皮肉なことに中国系企業の支援を受けることで、日本の「ケイレツ」による下請けいじめから脱出できて、付加価値の高い企業になった事例もあります。

 

「安い日本」はリゾート地もお買い得です。コロナ禍のなかでも、日本のリゾート地を、他国が購入しています。億単位のコンドミニアムが普通に売れています。なぜなら世界と比べてとても安いからです。

 

「安い日本」は何より人材が育ちません。海外で活躍できる人材を育てたくても、海外大学の授業料、そしてその生活費が高いのです。これまでのように簡単に留学できなくなるでしょう。

 

そして日本人がグローバル企業や国際機関のトップに慣れないだけではありません。日本企業のトップも外国人が増えていくでしょう。結果として日本人が貧しくなっていくということです。

 

◇「安い日本」への対応策

 

デフレの悪影響は、もう20年以上前から盛んに論じられてきました。この本でも、日本型雇用を改め、人材の流動性を高めることや、賃金を上げることなどの様々な対応策が提案されています。

 

しかし、これらの対応策も大きな効果はないのではないかと個人的には思います。なぜなら本質的に日本人はディプレッション(停滞)を好んでいるということです。経済がインフレになり、賃金が上がっても、結局は物価も上がり、乱気流のような環境へ移るだけです。であれば、今のまま、緩やかに日々を送る方がいいということです。もちろんそれは危険な幻想ですが…。

 

結局は、国の政策に頼るのではなく個々の企業が局地戦で勝ちを得ていくしかないと思います。「安い日本」の中にも多くのビジネスチャンスはあります。安く仕入れて高く売るは商売の原理原則です。日本にはまだまだ高く売れる製品・サービスがたくさんあります。

 

また、モノ消費でなく、コト消費に対しては高いお金を払います。最近流行りの、フルーツ大福はインスタ映えもよく、1,000円近い価格です。大企業が、ステレス値上げに励むなかで、小さな企業のちょっとしたアイデアが、大きな商機を生み出します。

今は大きな変革期で、様々なビジネスが生まれています。停滞を抜け出す大きなチャンスだと思います。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。