株式会社grit(グリット)代表 原田健 ブログ

grit代表原田健の戦略、人材育成、テクノロジーなど幅広くビジネスに関するブログです

差別化って何ですか?

◇差別化は理解されていない?




 

「差別化」という言葉は、ビジネスの世界で当たり前に使われています。一方で、差別化について具体的に説明できる人は少ないです。経営陣は現場で働く人たちへ差別化を図れと、檄を飛ばします。しかし、具体的に何を、どうやるのか不明な場合がほとんどです。



 

具体的な差別化の論理は、マイケル・E・ポーターの「競争優位の戦略」に説かれています。しかし、この論理をきっちりと説明している解説本や、WEBの記事を読んだことがありません。ちなみに、翻訳本の「競争優位の戦略」を読んでもわからないと思います。僕も翻訳本を読みました…が、何度この日本語を読んでも意味がわかりませんでした。こんな日本語ははじめてでした。結局、原著と並行して読みました。それで、ようやくわかりました。



 


◇活動のつながり < バリューチェーン >



 

ここでは、架空のチーズタルト製造業をモデルに差別化の根本的な論理を説明します。この企業は、厳選材料、本格製法のこだわりタルトを製造しています。



 

まず、差別化を通常より高い価格で販売できることと、簡単に定義します。顧客は企業が提供する製品に価値を認め高い価格を支払います。

 



企業は、製品という形で顧客にとっての価値を作り出します。企業は様々な活動の集合体です。下図の通り、タルト製造業の活動は分類されます。ここでは直接価値をつくる主活動のみを取り上げます。



 

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これらの活動のつながりを「バリューチェーン」と呼びます。各活動がそれぞれの役割を担い最終的な価値をつくります。



 


◇活動の連結

 



個々の活動は、図のように連結しています。一つの活動で実行したことが、他の活動のパフォーマンスを上げる(より多くの価値をつくる)、または、コストを下げることにつながります。



 

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製造活動で、長時間低温で焼き上げることは、製品の味わいを高めるだけではありません。販売活動で、本格製法であることをプロモーション情報として活用できます。顧客が認識する価値が高まります。結果としてマーケティングのパフォーマンスが上がります。

入荷活動で、原材料をロット単位で区分して保管することで、製造活動の作業を削減し、効率を向上させます。結果としてコストが下がります。

 



このように一つの活動のやり方が、他の活動へ影響を与えます。これが連結関係です。



 



◇社会は価値をつくる活動の集合体

 



社会は、最終的な顧客(消費者)へ価値をつくるための活動の集合体です。社会では企業が、一般に下図のような役割を担っています。



 

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その役割は、下図のように活動の集合体になっています。ここではチーズ生産者、タルト製造業、小売業、そして最終消費者のつながりを描いています。

 

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この活動の集合体のなかで、差別化は、①製品の利用、②活動のつながりという2つの原理で実現されます。

 



 

◇①製品の利用



 

ここでは、チーズ生産者が、どのように差別化を実現するか説明します。チーズ生産者は、顧客であるタルト製造業のパフォーマンスを上げる、または、コストを下げることで、通常よりも高い価格(プレミアム価格)を手にすることができます。

 



まず、図のように、製品は顧客のバリューチェーンで利用されます。そして、顧客のパフォーマンスを上げる、またはコストを下げるように影響を与えます。

 

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品質管理されたチーズは、タルト製造業の入荷活動の検査業務を簡素化します(コストを下げる)。また、製造活動における製品のクオリティーを強化します(パフォーマンスを上げる)。形状の定まったチーズを納品することで、製造活動の効率を上げることができます(コストを下げる)。脂肪含有率の高いチーズは、販売活動のプロモーションを強化します(パフォーマンスを上げる)。



 



◇②活動のつながり

 



企業が顧客のバリューチェーンへ、影響を与えるのは製品だけではありません。企業間の活動のつながりを通して、影響を与えることができます。チーズ生産者と、タルト製造業のバリューチェーンは図のようにつながっています。

 

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チーズ生産者の配送活動における多頻度配送は、タルト製造業者の入荷活動の在庫量を減少させます(コストを下げる)。また、チーズ生産者の生産活動における生産情報の提供は、タルト製造業の販売活動における製品開発力を向上させます(パフォーマスを上げる)。

 



 

◇差別化とは



 

差別化とは、製品、活動のつながりを通じて、顧客のバリューチェーン全体へ影響を与えることです。影響を与えるとは、パフォーマンスを上げる、またはコストを下げることです。結果として顧客がプレミアム価格を支払うようになります。

 



パフォーマンスを上げるとは、ブランド、ステイタスなど、心理的な要因もあります。またバリューチェーンは、顧客が消費者の場合は、やや複雑になります。しかし、基本は同じです。

価値は、顧客が認識しなければ価格につながりません。

 

価値は、企業が一方的につくるものではありません。顧客が認め、お金を払ってくれて、はじめて価値になります。実務では、顧客に価値を伝え、わかってもらうとことが難しいです。

 



 

◇差別化を実現するために

 



まず差別化の論理が必要です。論理がなければ、検証できず、改善できず、続きません。論理だけでなく、関わる人々の理解と創意工夫が必要です。この創意工夫を引き出すのは、働く人の知識です。

 

そのためには面倒でもバリューチェーンの「見える化」と、共有が必要です。

しかし、現実で目にするのは、「差別化」という掛け声だけで、何の論理もないことです。

 

よくあるのが、「お客様第一」という言葉だけしかないことです。

「お客様第一」で、みんなで頑張って「差別化」する。なので高い価格で販売できる。論理がこれで完結です。「差別化」したので、次に「ノルマ」を設定する。さあ、「みんなで頑張ろう!」と…。まあ、お客様からしたら迷惑ですね。社員のモチベーションも下がります。

 

経済的に高度に成熟化した現代社会では、「気合」と「根性」だけで「差別化」は実現できません。

一方で、バリューチェーンを「見える化」すれば、無限の差別化のやり方が見えてきます。「見える化」すれば、働く人の創意工夫を引き出すことができます。

 

社会が複雑になるほど、差別化のやり方は増えていきます。小さな企業に多くのチャンスが生まれます。



 

大企業でも、びっくりするくらいこの基礎ができていません。バリューチェーンを「見える化」することで、具体的な取り組みが定まり、収益力に大きな違いを与えます。お宝は現場に、そのプロセスにたくさん埋まっています。

 



 

バリューチェーン解説動画



 

バリューチェーンについて、より詳しくgritの動画で解説しています。バリューチェーンは、基本戦略策定、業務改善、多角化、組織構築など実務でとても使えます。しかし、その基本概念を働く人たちで理解する必要があります。ご視聴いただければ、バリューチェーンとは、とても当たり前のことですが、大事な概念だということがわかります。

 

youtu.be

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。

発情期の牛、働く人の幸せ

◇牛の発情期センサー

 

15年くらい昔のことです、あるベンチャー企業の事業内容に衝撃を受けました。

 

その事業は、雌牛の発情期をセンサーで感知するというものです。これまで雌牛の発情期の判断はベテラン飼育員の目利きに任されていました。それがセンサーで測ることで、人に頼らず確実にわかるというものです。

 

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雌牛は発情期になると、特有の落ち着きのない動きを取るようになります。発情期は一定のサイクル(20日くらい)でやってきます。一方で発情期は短く、適正な受精をするためには、早期発見が求められます。もし、受精に失敗すれば、なかなかの損失になります。しかし、雌牛にセンサーをつけることで、特有の動きを検知し、迅速に知らせてくれます。ベテラン飼育員の目利きに頼ることもなく、確実性も高いです。

 

そして、この技術は現在、業界では標準的な技術になっています。WEBを検索すると同じ製品を提供する企業がたくさんあって、私が読んだ冊子の企業がどうなったかはわかりません。確か宮崎の企業で、産官学連携の案件だったような記憶があります。多分この企業だと思います。

 

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特許情報プラットフォームを検索すると、1998年には、「識別記号および雌牛発情期表示器」という特許が出願されています。ちなみにスウエーデンの人の発明のようです。上述の企業も1999年から「発情ピタリ」という製品を開発しているようなので、何か関係があるのかもしれません。

 

ちなみに現在は、似たような特許が、NEC富士通からも出願されています。なので「雌牛発情期センサー業界」は様々な企業の製品が入り乱れています。

 

◇働く人の幸せセンサー

 

そして、5年くらい前、同じような原理のセンサーに衝撃を受けました。それは働く人の「幸せ」を、センサーで図ろうというものです。

 

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2015年日立グループの「イノベーティブR&Dレポート」に、「ウエアラブル技術による幸福感の計測」という小論文が掲載されました。

 

https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/2015/06_07/2015_06_07_13.pdf

 

内容は、人の「幸せ」をウエアラブルセンサーを使って定量化するというものです。詳しい説明は省きますが、研究チームは、人の身体運動に着目し、「1/Tの法則」を見いだしました。そして、人の「幸せ」と「1/T」のゆらぎに強い相関があるというのがこの小論文の結論です。

 

この「1/T」のゆらぎは、隠れた身体運動の特徴を捉えた指標であり、移動が多い営業職と、椅子に座る業務が中心の事務職のように職種による運動量の差には影響されないということです。

 

また、「幸せ」を単に居心地のよい安楽な状態と定義していません。自身のレベルに応じて、仕事をしている状態が幸せだということです。つまり仕事が簡単すぎて「退屈」という状態と、難しくて「不安」という状態の間に「幸せ」があるということです。

 

この小論文では、フロー理論のミハイ・チクセントミハイにも言及しています。チクセントミハイの著書「FLOW」を読んだ方には、この「幸せ」の定義の素晴らしさがわかると思います。

 

なお、この研究結果は、日立グループから社内ベンチャー「ハピネスプラット」として、事業化されました。アプリも無料でダウンロードできます。

 

事業化されて、表現がかなりマイルドになっています。個人情報の扱いがかなり厳しくなったことや、データをAIで解析することの倫理観など、今はいろいろうるさくなっているので、かなり気をつかっているなと思います。

 

それでもこの定量化された数値は、人の主観が入るアンケートや、専門家が行う複雑な組織サーベイなどよりも信憑性がもてると思います。これを導入する企業は増えていくと思います。

 

◇なんでも数値化される

 

近年はなんでも数値化される時代です。睡眠の質を測るスリープテックも普及してきました。体重計も、体脂肪率だけでなく、骨密度から、肉体年齢まで図れます。さらには臭いもセンサーで測れるようになりました。なんと手のひらの臭いでその人の気分がわかるということです。

 

しかし、数値化の多くは、そのまま解決につながりません。考えてみれば当たり前のことです。体重計を例にとります。おそらく日本人は、1週間に1回以上(多くの人は1日2回)は体重を測っていると思います。しかし、世間はダイエットのコンテンツで溢れています。みんな自分の体重をコントロールするのに必死です。体重を測って予想より軽ければ、うれしくなって、必要以上に食べます。もし予想よりも重ければ落ち込み、食事制限する。その繰り返しだと思います。

 

社員の「幸せ」を測っても、ネガティブシンキングの人たちが集まっていれば、私はなんて不幸なのだとか、ウチの組織はなんて幸せがないのだとか、余計に暗くなりそうです。性格が悪い人たちの集まった組織であれば、数値が低いのはあいつのせいだ、などとんだやぶ蛇になりそうです。

 

何事も数値化されても解決策がなければ、そしてその解決策を確実に実行できなければ、それを解釈、または言い訳するのは人間なのでまたひどい結果を招きます。

 

そもそも組織に明確なビジョンと目標があり、みんなで共有し、実行、フィードバックすれば「幸せ」になります。このことは大昔から変わっていません。

 

◇取捨選択が大事

 

今、世の中には、このシステムを導入すれば会社の業績が劇的に良くなるというような魅惑的な製品・サービスで溢れかえっています。営業DXとか、人事DXとか、財務DXとか、そういうセミナー、イベントもたくさん開かれています。

 

でも結局は、みんなと同じことをすれば、同質化競争に陥り、自社の製品・サービスがコモディティ化し、価格競争になります。そして最後は「気合」と「根性」が引っ張り出されます。いつものパターンです。

 

このような時代、大事なことは取捨選択、つまり必要なものを見極めることです。大小を問わず、すべての企業で強みの根源は、極めてアナログな要素です。人の熱意であり、組織の風土であり、理念です。

 

そのためには改めて、自社の内部分析とビジョンの共有、そしてテクノロジーの根本理解が必要です。両方とも、頭に汗をかくしかありません。粘り強く人を育てる必要があります。そして、現場で試行錯誤を繰り返すということです。人が働く「幸せ」はそこにあると思います。

あなたもバルセロナの経営に参画できる? 〜スポーツビジネスの新しい形〜

◇暗号資産技術を使った新しいビジネスモデル

 

各スポーツクラブが暗号資産技術を利用した「ファントークン」の導入を進めています。現在、急速に普及が進んでいるブロックチェーンの応用で、新たなビジネスモデルが誕生しています。このモデルはスポーツクラブだけでなく、様々な分野へ波及すると思います。

 

クラブのファンは、クラブが発行するトークンを購入します。誰がどれだけのトークンを保有しているかは、ブロックチェーンで簡単、確実、安全に管理できます。また、クラブはこうしたトークンの発行、管理をITサービスベンダーへ委託します。

 

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トークンを購入したファンは、株式と同じように、持分に応じて様々な特典(限定イベントの参加など)を得たり、クラブの意思決定(ユニフォーム・グッズのデザインなど)に参加できます。

 

熱狂的なファンにとって、単に視聴するだけでなく、何らかの形でクラブの経営に関われることは、大きな魅力です。

 

◇新しい収益の柱

 

スポーツクラブの主な収入は、入場料収入と、スポンサー収入(広告料収入)です。しかし、このコロナ禍で、入場料収入に大きな打撃を受けました。また広告料収入も、コロナ禍の影響を受け、金額が大幅に減少しました。さらにメディアが多様化するなかで、放送料などは、一回あたりの金額が少なくなっています。

 

そのなかで、「ファントークン」の発行が新たなビジネスモデルとして注目を集めています。クラブは最初のトークンの発行時だけでなく、トーク保有者が別の人へトークンを販売した場合も、その販売金額に応じて手数料を得ることができます。この保有権の移転、手数料の徴収もブロックチェーンを使えば簡単にできます。このとき、ファントークンが最初の発行時よりも高い金額で売買されれば、クラブが得られる手数料もより高い金額になります。

     

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◇メガクラブから地方クラブまで

 

世界的なフットボールチームのバルセロナは、2020年6月にファントークンを約260円で販売しました。60万枚が2時間で完売しました。合計で、約1億5千万円です。ここからさらに転売による手数料収入が見込めます。他にも、ユベントスパリ・サンジェルマンなど名だたる強豪クラブが相次いでいます。現在、これらのメガクラブのファントークンを管理するのは、地中海の島国マルタに本社があるチリーズという企業です。このようなベンチャー企業が、歴史あるメガクラブの委託を一手に引き受けています。

  

埼玉県川越市にあるフットボールチームのCOEDO KAWAGOE F.Cは、まだ社会人リーグに所属する全国的には無名のチームです。30年までにJリーグ加盟を目標にしています。このクラブは、約1,500万円のファントークンを販売しました。

 

世界的なクラブから、地方のアマチュアクラブまで、ファントークンを活用しています。フットボールだけでなくバスケットボール、卓球など他のスポーツでも、ファントークンを使った新しいビジネスモデルを模索しています。

 

◇2つのポイント

 

この世界的な流れには大きく2つのポイントがあります。

 

まず一つは、コロナ禍のなか、各クラブが新たな収益の柱を求めて危機感を持って取り組んでいるということです。平常時であれば、スポンサー契約で100億円単位の収入を得るフットボールのビッグクラブなどは、こんなややこしいことはしなかったと思います。

 

こうしたビッグクラブが危機感を持って本気で取り組んでいるので、これからファントークンをベースにした新たなサービスが生まれてくると思います。

 

次に、この動きはスポーツクラブだけでなく、様々な分野へ波及するということです。当然、有名人のファンクラブなどは相性が良さそうです。更には、クラウドファンティングの進化バージョンにもなりそうです。株式やゴルフの会員券なども管理の仕方が抜本的に変わるかもしれません。地方にある小さな飲食店が、自分のお店のファントークンを発行することも可能になります。

 

現在、コロナ禍の自粛ムードのなかで経済が停滞しているように感じる方は多いと思います。しかし、そのなかでテクノロジーの普及が進み、新たなビジネスモデルが次々と生まれています。「AI」×「クラウド」×「5G」のトライアングルが完成し、ブロックチェーンが普及しただけではありません。世界的にライフスタイルが変化しました。各企業が危機感を持って様々な取り組みを進めています。実はビジネスの世界はびっくりするほど激しく変化しています。コロナ禍終息後の世界は想像もつきません。

 

◇動画案内

 

ブロックチェーンの原理について、gritの動画で解説しています。こちらをご視聴いただければ、その原理のシンプルさと、活用範囲の広さに驚くと思います。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。

  

     
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スーツの歴史 〜あるいは理不尽な社会の選択について〜

◇スーツの歴史を語る


スーツの歴史をかなり適当に語ります。
 
以下の話は複雑なスーツの歴史をベースに、原田健が勝手に創作した話だととらえてください。まあ、歴史小説も、そんな感じですし。いいではありませんか。

 

◇スーツの3点セット
 

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 ビジネスマンの服のセットは、上下のスーツ、ワイシャツ、ネクタイで構成されます。そのセットの生地は、スーツはウール(羊の毛)、ワイシャツはコットン(植物)、ネクタイはシルク(昆虫の繭)です。
 
 ※ポリエステル(化学繊維)も多いです。
 
◇スーツの前に来ていたもの

昔のヨーロッパ、19世紀ビクトリア朝時代(1837年~1901年)、貴族の正装はシルク(昆虫の繭)の服でした。遠くの地、アジアで取れたシルクが贅沢品でした。シルクは発色が良く、柔らかくオシャレにはうってつけでした。アジアからヨーロッパまで、貴族の見栄を満たすべく、商人たちはせっせとシルクを運んでいました。これがシルクロードというものですね。
 
ちなみに19世紀ビクトリア朝時代は、みんなで無理してお上品に振舞っていた時代です。テーブルの脚がむきだしで下品だというので、布のカバーをしていたそうです。
 
そんな時代、貴族たちは仕立て屋で服を作っていました。上着上着で、ズボンはズボンで、チョッキはチョッキで、服を作っていました。シルクの服で着飾ってパーティをしていました。いっぱい飾りがついて、体をぎゅうぎゅうに締め付けて、動きにくい服です。
 
◇スーツの原型

長いパーティの間、ずっとシルクの服だときついので、男性たちは、途中で楽な服装に着替えて、別の部屋でくつろいでいました。この別の部屋がダイニングルームです。
  
このダイニングルームで着ていた楽な服が、ウール(羊の毛)で上下お揃い(同じ仕立て屋)で作った服、つまりスーツ(suit・一揃いの)です。スーツは元々はジャージのような服でした。
 
まあ、だんだんと形が崩れて、もうスーツが正装でいいんじゃないか、となったのでしょう。少し正確に述べると、この頃、ヨーロッパでは英国の力が強く、英国流のダンディズムが広まったということです。


※諸説あります。
 
あと、ブリテン諸島にはその辺にごろごろ羊が歩いています(行ったことはないけど)。苦労して昆虫を育てるよりも、その辺を歩いている羊の毛を刈ったほうが早いです。羊なんて毛を、刈っても、刈っても、メェーとしか言いません。羊の毛なんてどんどん生えてきます。放って置けば草まで食べてくれます。とてもエコです。
 
◇ネクタイの起源とダンディズム


さて、その英国流ダンディズムですが、その原型は、ビクトリア朝よりちょっと前の時代にできました。英国にボウ・ブランメル(1778年~1840年)というおしゃれのカリスマがいました。どいう立場だったのかよくわかりません。軍隊の要職に就いていたようです。まあ、英国上流社会のおしゃれ番長だと思ってください。そのおしゃれ番長が、ウールでできた軍服に、シルクをまとうことを発案しました。これが今のネクタイになります。


※諸説あります。
 
ボウ・フランメルの提唱したダンディズムをもとに、羊の毛で作った上下一揃いの服と、ネクタイが定番になりました。ちなみにボウ・フランメルの教えとは、「身だしなみが完璧であるためには、俗眼の注意を惹いてはならぬ。」です。とても厳しいのです。
 
まあ、ここまで大きな流れはざっくり、貴族→紳士、シルク→ウール、装飾美→簡素美だということです。
 
◇おまけのボタン

スーツの袖にボタンが付いています。これはロシアの女王エカテリーナ2世(1729年~1796年)のエピソードに由来します。ある日、女王は、自国の兵隊が、服の袖で鼻水を拭いているのみたそうです。それが汚らしいので、袖にボタンを付けたということです。この女王のせいで、袖にボタンが付いているのです。
 
◇社会の理不尽な選択
に耐えるということ

夏がきて、みんなクールビズになります。その度、ネクタイだけでなく、もうスーツ自体を止めませんかと思います。もう羊の毛を着るのはやめましょうということです。高温多湿の日本に羊は住んでいません。でも羊の毛を着た人、羊男は沢山います。メェーとも言えず、社会の理不尽な選択に耐えています。僕もその一人です。

 

 

人材育成3つの壁 〜リアルな中小企業の実情〜

◇人材育成プログラムの前に…

 

コロナ禍の中、オンラインでの人材育成が盛んです。各社が競い合って様々なプログラムを作成しています。わざわざ東京まで行かなくても、著明な講師のレクチャーを受けることができます。その魅力的なプログラムを受けると、社員の能力が高まりそうな気がします。しかし、中小企業の現実はどうかというと、そのようなプログラムを受ける前の段階で大きな壁があります。

 

現実の中小企業の人材育成には大きく3つの壁があります。以下の文章は、多少、言葉遣いが悪いですが、ご了承ください。

 

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◇ ①興味がない

 

そもそもビジネスに興味がない。これは、中小企業だけでなく、大企業にも言えることです。

 

まず、中小企業の社員の多くは、入りたくて入った会社ではありません。当然、自社のビジネス、業界には全く興味はありません。プライベートの時間は、仕事のことは考えたくないという人がほとんどです。もちろん勉強、読書の習慣もありません。なので必要最低限のことしか頭に入りません。研修で良い話を聞いても、家に帰れば忘れます。

 

では、大企業はどうかというと、こちらも同じく多くの人は、ビジネスそのものに、興味がありません。興味があるのは、会社での自分の評価です。賢明に働くのは同期が100人くらいいて、その中で、強烈な競争意識があるからです。なので必要なことは必死に取り組みます。

 

この興味がないというのは大きなハードルです。人は興味がないことは理解しません。大企業の場合は、すでにシステムが出来上がっています。与えられたコマンド(命令)をこなせばいいです。何かあれば取引先に圧力をかければなんとか帳尻があいます。しかし、中小企業は目の前のプロブレム(問題)を解決しなければ、企業は存続しません。成長もしません。

 

◇ ②読解力がない

 

次に、文章、グラフ、図形の基礎的な読解力がないことです。

 

「AI VS. 教科書が読めない子供たち」を読むとわかります。学力中位の高校でも、大半は教科書が読めません。高校生の大半ではありません。学力中位の、つまり偏差値50くらいの高校生が読めないということです。

 

偏差値50くらいだと、大企業のグループ会社や、地方の中堅企業に入るくらいのレベルです。そういう人たちの半分が文章をまともに読めません。さらに、今の若い人たちは圧倒的に語彙力が足りません。なので日経新聞を読むことができません。

 

そして、中小企業に入る人材は失礼ながら、それよりもひどいということです。

 

◇ ③知的・精神的・肉体的な安定性がない

 

ちょっと身もふたもない書き方ですが、私が経験してきたリアルな現実です。中小企業の社員の少なからずが、知的・精神的・肉体的な不安定さを抱えています。

 

日本の教育システムの設計思想は、社会に適合できるかスクリーニング(選別)することです。スクリーニングを無事潜り抜けたひとは、いい大学に入って、いい会社に入ります。当然、中小企業にはそのスクーリングで引っかかった人が入ります。

 

たまに中小企業に、中途採用で立派な学歴、職歴の人が入ったりします。経営者は大喜びです。しかし残念ながら、そういう人は多くの場合、何らかの形でスクリーニングに引っかかったということです。多くの場合、期待したような活躍はできません。そして予想もしなかったような問題を起こしてくれます。

 

中小企業は一人の人で失敗すると大打撃です。問題ある人に時間とお金をかけて、責任のある地位につけて組織がガタガタになったことを何度も見てきました。おとなしくこつこつと働いていた人が、人の上に立って豹変したこともありました。

 

◇前提の確認

 

こうしてみると、人材育成プログラム云々ではなく、その前提で壁にぶち当たっています。

 

御社の人材は、①ビジネスに興味がない、②読解力がない、③なんらかの不安定さがある。この壁をクリアしているでしょうか?

 

御社の社員に、最近、ビジネスに関する本を読んだか聞いてみてください。もし読んだのならその内容を聞いてみてください。たぶん最初の「本を読んだか?」という質問で全滅すると思います。多くの人は、ビジネスに興味がないし、読書の習慣がありません。読書の習慣がなければ、語彙は増えません。

 

そういう人間が、デジタルトランスフォーメーションなど聞いても、何もわからないと思います。

 

あと360度評価を実施することです。匿名で部下や同僚の評価をとってみてください。かなり、いろいろでてきます。経営者よりも、周りの人たちのほうが、その人の真の姿をわかっていることが多いです。

 

また、社員の生活習慣を把握したほうがいいです。食事・睡眠をしっかりとっているか、生活リズムは整っているかはかなり重要です。

 

◇壁(問題)への対策

 

前述の通り、人材育成には、3つの壁(問題)があります。しかし、問題があれば対策はあります。

 

まず興味がないと言うことに関しては、ビジネスの全体像を理解させること、そして自分の役割を与えることです。人は自分が理解できないものには興味を持ちません。なので、自社のビジネスモデルや、社会的役割を、わかりやすく根本的なことから理解させる必要があります。また、仕事に興味を持ってもらうためには、役割を与えて、裁量を与えて、承認を与えることです。このことは、会社が成長していくという物語を共有すること、そして、自分自身がその物語の登場人物の一人であるという認識を持たせることです。

 

次に、読解力を向上させることは、簡単ではありません。基本は、インプット、アウトプットを繰り返すことです。もちろんフィードバックも必要です。仕事のなかで読む、聞く、書く、そしてフィードバックを受けるというサイクルを定着させましょう。読解力が上がれば、自ずと他の能力も上がっていきます。

 

読書の習慣をどうやって定着させるといいかはこのブログに書いてます。

【職場の読書論 〜読書の習慣を定着するには〜】

https://www.biznavi.co.jp/blog/archives/7381

 

最後に、面接や、試用期間でスクリーニング(選別)は必要です。小さな組織ほどスクリーニングができていません。採用担当者は自分のノルマさえこなせばよく、現場もとりあえず人がいないよりはいたほうがいいという感じで、スクリーニングできていません。面接で適正テストをする。試用期間中も、業務の理解度をテストをする、面接をする、周囲の評価を取るなど、スクリーニングをしたほうがいいです。

 

◇人が育つ条件

 

中小企業の社員で、学歴などなくてもバリバリ仕事ができる人がいます。会社の全体像がわかっていて、論理的な思考ができて、問題解決力があります。このような人を何人か見てきました。

 

どのようにその人たちは成長したのか?それは、会社と一緒に成長したということです。カリスマ社長のもと、会社が急速に拡大するなかで、様々なタスクをこなしていったからです。会社の成長という物語と、自分の役割があったからです。最初の興味がないをクリアすると、人材育成はほぼ成功です。

 

環境が変われば、認識も変わります。そして成功体験を積めば、人は劇的に成長します。小さな組織のメリットはトップの経営者と社員の距離が近いことです。さらに人事に柔軟性、俊敏性があることです。業績のいい中小企業の経営者は社員と密にコミュニケーションをとっています。そして目をつけた人材はすぐ抜擢します。

 

人は、他者からの承認、そして人生の物語を必要とする社会的存在です。小さな組織はトップからの承認を得られます。物語も共有できます。面倒だなどと言わず、社員との距離を縮めましょう。良い人材は会社にとって一番のお宝です。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。

職場の読書論 〜読書の習慣を定着するには〜

◇本を読まないという嘆き

 

多くの経営者の方から、社員(若い人)が本を読まないという嘆きをよく聞きます。

若い人だけにかぎらず、私の周りの専門家と言われる人でも、本を読んでいる人は少ないです。

 

本を読むという行為はとても時間を取ります。スマホ全盛の時代では、読書は、コスパの低い行為なのかもしれません。

 

◇経営者と読書

 

一方で経営者の方は、本を読む人が多いです。多くの経営者は、経営者同志のネットワークを持っています。そこで先輩経営者から、「この本を読むといいよ」と進められることが多いです。また仕事柄、移動が多く、移動時間でできることの一つが読書です。そして、読んだ本の内容は、先輩経営者へフィードバックすることになります。なので読書で得られる効果を体感しています。

 

◇普通の人と読書

 

本を読むことは、直線的思考を強要されます。一定の時間、集中して活字を追うことは、脳に負担をかけます。ある程度、訓練が必要です。

 

一方で、SNSやゲームは、次々と切り替わっていきます。即座に自分の必要な情報にアクセスできます。おそらく人間本来、というか動物と同じ拡散的思考になっています。

 

1日のほとんどを、ネットに接続している現代人は、できることなら本は読みたくないというのが本音だと思います。

 

あるいは必要な情報はネットで収集できるので、本を読むなんて時代遅れだという意見もあると思います。

 

◇読書とは

 

読書は、単に情報を得るものではありません。著者のものの見え方、考え方、そしてその論理的な組み立てを、体験することが読書だと思っています。これはあくまで私の読書論です。

 

※ちなみに、私は速読ができません。何度か試しましたが身につきません。

 

読書という体験で、自分の認識の枠組みが変化します。物事の考え方が改まります。物事に複数の視点を持てるようになり、世界が広がります。

 

読書の楽しさは、著者の視点、思考を通して、新たな世界観を手に入れることだと思っています。

 

◇読書のすすめ

 

読書の習慣はあった方がいいです。だからと言って、若い人たちに本を読めといっても読みません。ついついスマホに手が出るのが現代人です。なので私が最近読んだ本の中から、いい取り組みの事例を紹介します。

 

それは大学のゼミでの取り組みです。ゼミの学生に、みんなの前で自分が選んだ新書を一つ紹介してもらうという取り組みです。このとき紹介する人は、1冊読破する必要はありません。自分が読んでみたいと思った新書を紹介するだけです。そして「どうして、その本を選んだのか」を説明します。そうすると、1ページも読んでいなくても、「著者はだれか」、「どういう履歴の人か」、「どんな知見が得られるか」ということを考えるようになります。

 

このやり方であれば、Amazonの中身検索だけでも、終わらせることができます。そこまで負担はかかりません。お金もかかりません。

 

企業でも、同じように、社員から読みたい本を紹介してもらうという取り組みができます。週一回くらい、ローテーションで、みんなの前で発表してもらうといいでしょう。

 

そうすれば、なかには実際に読もうとする人もでてくると思います。もし読み終わり、そのことを発表することができれば、大きな成功体験になります。

 

◇成功体験が必要

 

今の本、特に新書は読みやすく作られています。1文、1段落が短く、さっと読めるようになっています。ベースとなる知識がなくても、2時間くらいで読み終える本は結構あります。

 

まずは一冊の本を読み通したという成功体験が必要です。良い本を一冊読めば、世界観が変わります。その世界観を誰かと共有できれば、また本を読む意欲がわきます。そういう人が増えると、社内の雰囲気も変わります。一度、分岐点を超えると良い連鎖がつながっていきます。

 

まずは本に興味をもってもらうこと。いきなり読ませるのではなく、小さなステップを作るというのが基本です。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。

磁気記録式メモリー(MRAM)はイノベーションの中心になるか

日経新聞の記事

 

日経新聞7月20日(火)の朝刊に磁気記録式メモリー(MRAM)の記事が掲載されました。普及にめどがついてきたようです。これで日本の産業が、ビジネスのメインストリームに食い込めると期待しています。

 

この技術は、現在の要素技術のトライアングル、「クラウド」、「AI」、「5G」に続いて、ビジネスに大きなインパクトを与えると思います。

 

◇テクノロジーの進化は想像以上

 

データの記録に電子のスピン(回転)を利用するなんて、技術の進化は信じられないです。1ビットの記録が、磁気のS極、N極から、電子のオンオフになって、さらにそこから電子のスピンになって…。

 

25年くらい前、私はIBMのパソコンをフルセット30万円で購入しました。巨大なブラウン管のディスプレイと、ハードディスクの入った巨大な本体が机の上で大きなスペースを占領していました。その頃は、コンピューターの前でタバコを吸うなといわれていました。タバコの煙の粒子が、磁気ディスクの隙間に入り込むからです。また、ハードディスクが動かなくなったら、ぐるぐる回すといいとも言われていました。そんな物理的な牧歌的な時代から、電子のスピンを利用する時代になりました。もうハードディスクを持ってぐるぐる回ることもないでしょう。なにせ電子がスピンしているのですから!

 

本当にテクノロジーの進化は予測不可能です。

 

◇普及と用途

 

このMRAMは小型の端末に使われます。さらに同時に大量のデータを保存する必要があるAIにも使われます。これらの用途では、従来の1000分の1の電力だそうです。

 

小型で省電力といえば、まったく同じフレーズだった技術があります。

 

Bluetoothです。今、Bluetoothはあらゆる電子機器に搭載されています。同じように将来は、MRAMがあらゆる電子機器に搭載されるかもしれません。

 

ワイヤレスのイヤホンも、スマホにつながず聴けるようになります。同じくスマートウオッチもスマホから独立して機能できるようになります。あらゆる機械に、多くのセンサーを搭載し、同時に利用できるようになります。家畜動物の管理でも活用されるでしょう。牛、豚、鶏だけでなく、魚の養殖も1匹、1匹自動で管理できます。動物や昆虫の生態を観察できるようになります。

 

もしかしたら人間も徹底的に管理されるかもしれません。今、サッカーは選手一人一人にGPSをつけて、試合の間、選手のデータをとっています。MRAMが普及すれば、さらに進んで、両手、両足、頭にもセンサーがつけられるようになるかもしれません。そうすれば、完全バーチャルリアリティーで選手の目線や動きを再現しながらチャンピオンズリーグ決勝のゴールを選手を選手の立場で体験できるかもしれません。

 

◇テクノロジーの教養

 

現代社会はあらゆるビジネスがテクノロジーの進化の影響を受けます。本質的な要素技術のことを理解する必要があります。最近なんでも「DX」という言葉が使われますが、どれだけの人が、本質的なことを理解し、考えているのでしょうか?

 

「テクノロジーの教養が必要」と、ベンチャーキャピタリストの山本康正さんが著書の「次のテクノロジーで世界はどう変わるのか」に書いていました。この本のなかでは、テクノロジーを関連づける「マップ」の必要性も説いています。

 

 

 

最近は、テクノロジーの進化はとても早いですが、山本康正さんの本のように大変わかりやすく全体をまとめた本もあります。「DX」のトランスフォーメーションとはなにか?などという議論よりも、要素技術の基礎知識を理解し、関連付け(マップ)ができるようになったほうがいいです。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。