株式会社grit(グリット)代表 原田健 ブログ

grit代表原田健の戦略、人材育成、テクノロジーなど幅広くビジネスに関するブログです

「安い日本」 〜構造的なデフレの果て〜

◇「安い日本」という衝撃

 

「安いニッポン「価格」が示す停滞」という本を読みました。日本が置かれている環境は、ある程度はわかっていたことなのですが、こうしてデータと事例でまとめられると、かなりの衝撃を受けました。以下、本の要約と個人的感想です。

 

◇他国の価格は高い? ビックマックとディズニーランド

 

2021年現在、日本のマクドナルド、ビックマックの価格は390円です。一昔前、2010年の価格は320円でした。およそ10年で、70円値上げされました。とはいえ、まだまだリーズナブルな価格だと思います。

 

アメリカでは、2021年、その価格はおよそ590円です。日本より200円も高いです。なんと2010年の価格は、およそ330円でした。この10年で、250円以上値上げしています。

 

この10年で、なぜこれだけの差が開いたのでしょうか?アメリカでは、ビックマックはちょっとした高級品になったのでしょうか?

 

2021年、ディズニーランドの入園料は8,200円です。この6年で2,000円値上げしました。値上げはニュースで話題になりました。ファミリー層の悲鳴もよく記事に取り上げられました。

 

でも、世界のディズニーランドはもっと高いのです。パリで約1万8千円、フロリダで約1万5千円です。「日本より狭い」と言われる香港でも約8,500円です。

 

他国は、この価格でお客さんが来るのでしょうか?中流のファミリー層では滅多にいけないところなのでしょうか?

 

◇「安い日本」ということ

 

これらのことは、日本の価格が世界的に見て、「安い」ということです。

 

日本は30年超デフレが続いています。日本の消費者は安いということを何よりも重視します。企業は消費者のニーズに答えるため、懸命に努力してきました。結果として、企業が価格転換するメカニズムが破壊され、物価が上がらないのです。そして当然、賃金も上がらないのです。

 

一方で、アメリカの物価は20年間、ほぼ毎年2%ずつ上昇してきました。結果、2020年の物価水準は、20年前の2000年の5割増しになります。

 

では為替(名目為替レート)の動きはどうだったのでしょうか?2000年も、2020年もおよそ1ドル110円で大きな動きはありません。

 

そのため日本人が久しぶりに、アメリカに行くと、価格の高さにびっくりすることになります。一方でアメリカ人は日本の安さにびっくりします。

 

相対的に日本人の購買する力が落ちました。為替が安くなった(円安)わけではなく、20年間にわたるデフレ傾向が原因だと言えます。

 

ここでは、「購買力」を簡単に、一個人が、一定の金額で様々なモノ、サービスを買うことができる力と定義します。

 

そしてこの購買力を比較すると、日本の購買力は、アメリカの7割以下なのです。アメリカでは所得が上がっているので、ディズニーランドの入園料が上がっても負担感は高まらないのです。ビックマックもこれまで通り、リーズナブルな食事なのです。

 

日本は豊かな国だったのではなかったのでしょうか?「豊か」という概念をどう定義するかによりますが、ある程度の所得である程度の暮らしができるという意味では、日本は十分に豊かだと思います。

 

しかし、世界と比較すると長期デフレによる物価の停滞、上がらない所得、そして企業の賢明な努力によって、世界の中でも個別の製品、サービスの価格の安さが際立つようになりました。こんな先進国は世界でも日本だけです。

 

他国から日本にやってきて大量の品物を購入する「爆買い」の背景は、日本の品質がいいということだけではなく、単に安いからなのです。海外からの旅行者、インバウンドの急激な増加の背景も同じです。彼らはとてもクオリティーの高い日本の製品、サービスを信じられないほど安く買えるのです。

 

◇「安い日本」の現状

 

「安い日本」は、世界の優秀な人材を獲得することができません。どの企業も喉から手が出るほど欲しいIT人材は、他国が高いお金で獲得します。さらには、日本から優秀な人材も他国へ流出していきます。

 

「安い日本」は技術も安く買われます。高い技術を持った中小企業が、中国系の企業に買収される事例も増えています。皮肉なことに中国系企業の支援を受けることで、日本の「ケイレツ」による下請けいじめから脱出できて、付加価値の高い企業になった事例もあります。

 

「安い日本」はリゾート地もお買い得です。コロナ禍のなかでも、日本のリゾート地を、他国が購入しています。億単位のコンドミニアムが普通に売れています。なぜなら世界と比べてとても安いからです。

 

「安い日本」は何より人材が育ちません。海外で活躍できる人材を育てたくても、海外大学の授業料、そしてその生活費が高いのです。これまでのように簡単に留学できなくなるでしょう。

 

そして日本人がグローバル企業や国際機関のトップに慣れないだけではありません。日本企業のトップも外国人が増えていくでしょう。結果として日本人が貧しくなっていくということです。

 

◇「安い日本」への対応策

 

デフレの悪影響は、もう20年以上前から盛んに論じられてきました。この本でも、日本型雇用を改め、人材の流動性を高めることや、賃金を上げることなどの様々な対応策が提案されています。

 

しかし、これらの対応策も大きな効果はないのではないかと個人的には思います。なぜなら本質的に日本人はディプレッション(停滞)を好んでいるということです。経済がインフレになり、賃金が上がっても、結局は物価も上がり、乱気流のような環境へ移るだけです。であれば、今のまま、緩やかに日々を送る方がいいということです。もちろんそれは危険な幻想ですが…。

 

結局は、国の政策に頼るのではなく個々の企業が局地戦で勝ちを得ていくしかないと思います。「安い日本」の中にも多くのビジネスチャンスはあります。安く仕入れて高く売るは商売の原理原則です。日本にはまだまだ高く売れる製品・サービスがたくさんあります。

 

また、モノ消費でなく、コト消費に対しては高いお金を払います。最近流行りの、フルーツ大福はインスタ映えもよく、1,000円近い価格です。大企業が、ステレス値上げに励むなかで、小さな企業のちょっとしたアイデアが、大きな商機を生み出します。

今は大きな変革期で、様々なビジネスが生まれています。停滞を抜け出す大きなチャンスだと思います。

 

以上、最後までご精読ありがとうございました。